あの頃セナ・プロに熱狂した方へ③

あの頃セナ・プロに熱狂した方へ③

2020年「F1」こうなってます

今回はF1マシンの車体(シャーシ)についてのお話です。あの頃(セナ・プロ時代)と比べるとかなり変わっています。少々、混乱が見られた時期もありましたが、現在は洗練された進化をしています。
ちょっとややこしい解説もありますが、出来るだけ簡潔にまとめたいと思います。


あの頃からの流れ(かなり要約)

1994年、あの頃後半に発達したアクティブサスペンショントラクションコントロールアンチロックブレーキ4輪操舵など、ドライバー補助の電子デバイスが禁止されました。ドライバーの実力によるバトルへの期待や、コスト削減を目標にしたレギュレーション変更です。
その年の5月、サンマリノGPに於いてローランド・ラッツェンバーガーアイルトン・セナが死亡する事故が発生。(他、ドライバーと観客に負傷者)
電子デバイスの禁止も要因の一つとされました。
これを受けて「F1」は、マシンのスピード低下を目指し、ダウンフォースを削る処置を取ります。
失ったダウンフォースを取り戻すため、各チームが様々なアイデアを取り入れた結果、空力付加物が増えて行きました。ボディの真ん中や、ノーズ、サイドポンツーン上にウイングを立てたり、コックピット横に小羽根を生やしたり…付加物がピットインの際に引っ掛かり、トラブルになった事もありました。
見た目も、お世辞にも美しいとは言えないものでした。
近年は再三のレギュレーション変更や、風洞の進化によってダウンフォースを取り戻し、外見も良くなっています。電子デバイスは一部を除いて禁止のままです。
また、安全対策もかなり進化しました。


あの頃と違う主なものとしては...

DRS(Drag Reduction System)
リアウィングの2枚のフラップの内、1枚の角度を寝かせて抵抗を減らし、ストレートでの速度を上げるシステムです。
2011年、レース中のオーバーテイク増加を期待して導入されました。
レース毎に「DRSゾーン」が1箇所から3箇所設けられ、ゾーン手前の検知地点で、前車との差が1秒以下の時に使用が可能になります。(練習走行/予選時は、ゾーン内でいつでも使えます)

下の写真では、2台目のリアウィングが開いています。DRSを使用中です。

twitter.com/F1

安全デバイス
あの頃から最も進んだのがこの部分です。
1994年のサンマリノGP以来、安全に対するレギュレーション変更を重ねました。他カテゴリーの技術も柔軟に取り入れて、進化を続けています。
代表的な物をご紹介します。


ヘッドプロテクター
ドライバーの頭部保護のため、1996年に高さが規定されています。
あの頃のマシンを横から見た時、ドライバーの肩や腕が見えていましたよね。
今は、ヘルメットの半分位しか見えなくなっています。乗降時は取り外します。


HALO(ヘイローもしくはハロ)
衝突時や前方から飛んでくる大きな破片からの保護のために、2018年に導入されました。材質はチタン。見た目から「天使の輪」を表す「HALO」と呼ばれています。初めはその外見を否定する論評や記事をよく見掛けました。ベルギーGPで起きた、他車がコックピット上に乗り上げるという事故の際に、その有用性が認められると、批判的な意見は減っていきました。
現在は、他のカテゴリーでも順次採用されています。

黒い部分が「HALO」頭の周り(Ray・Banロゴの付いている部分)がヘッドプロテクター

twitter.com/F1

HANS(Head And Neck Support)
衝突時の前後方向からの衝撃から、ドライバーの頭や首を守るデバイスです。
首から両肩に掛ける様に装着し、ヘルメットとはストラップで接続します。
アメリカのレース界で普及が始まり、「F1」では2003年から義務化されました。現在は広く自動車レースで使われています。

両ドライバーのヘルメット下の黒いものが「HANS

twitter.com/F1

その他にも、クラッシュ時にタイヤが飛んでいかない様、丈夫な素材(ザイロン)を使ったテザー(つなぎ紐)の義務化、小さな飛来物に対応するヘルメットの規定変更、ドライバーの脈拍等のバイタルをモニター出来るグローブの導入などがあります。


ドライブ・バイ・ワイヤ/ブレーキ・バイ・ワイヤ
ハイブリッド時代に入ってからの技術です。
あの頃のマシンのアクセルは、ペダルとエンジンがケーブルリンク機構で直接つながっていました。ハイブリッドでは、エンジン(ICE)とモーター(MGU-K)を両方制御しますので、電子的なコントロールが必要となります。
その為、アクセルの開度を電気信号に替えて、処理しています。
これを「ドライブ・バイ・ワイヤ」=電線(ワイヤ)によるエンジン制御と呼びます。
また、ブレーキング時に、ディスクブレーキとモーター(MGU-K)での回生を協調させるためにも電子制御が使われています。(リアのブレーキのみです)
こちらは「ブレーキ・バイ・ワイヤ」と言います。

*文中の「ICE」と「MGU-K」については次回でもう少し詳しく説明します。


ギアボックス
あの頃のギアボックスは、各チームが自由に段数やギアレシオを決めていましたし、変更についても自由でした。
今年は、段数は8段ギアレシオはシーズン中は変更不可と規定されています。シーズン中の交換数も決められていて、これを超えるとグリッド降格ペナルティーを課されます。
また現在は、ギアチェンジの時の空送(ニュートラルになる瞬間)がほぼ起こらない、シームレスギアボックスが用いられています。これによって、1周あたり0.5秒程度稼げるそうです。
ドライバーが片手で操作していたシフトノブも今は無く、ステアリングのパドルで操作する様になっています。


あの頃からマシンがどんな風に変化してきたか、お解り頂けましたか?

2022年には大きなマシン規定の変更を控えています。新しい時代の「F1」がどんな姿になり、どんな技術を投入してくるのか。
今から楽しみにしています。

次回の「あの頃セナ・プロに熱狂した方へ④」では、「パワーユニット」に付いて説明します。

参考文献
『F1テクノロジー考』世良耕太(著)山栄書房 2018年
『2020FIAフォーミュラ1世界選手権規則書
 /競技規則(2020.4.28付)日本語版』JAFモータースポーツ http://jaf-sports.jp/
2020FIAフォーミュラ1世界選手権規則書
 /技術規則(2020.6.19付)日本語版』JAFモータースポーツ http://jaf-sports.jp/