あの頃セナ・プロに熱狂した方へ④
2020年「F1」こうなってます
今回はF1マシンの「パワーユニット」の解説をしたいと思います。
あの頃の「エンジン」に相当するものは、現在「パワーユニット」と呼ばれています。
ちょっとばかり複雑なシロモノですが、出来るだけ簡単に説明出来るよう頑張ります!!
あの頃からの流れ(要約)
あの頃は、ターボエンジン全盛期からスタートでしたね。16戦15勝を挙げたマクラーレン・ホンダのターボエンジンは1400馬力を超えると言われていました。
上がり続ける馬力競争に危機感をもった「F1」は、1988年限りでターボを禁止し、翌年から自然吸気(NA)3500㏄エンジンのみとします。V12,V10,V8と異なる気筒数のエンジンが登場し、それらのエンジン音もレースを盛り上げていました。(ホンダのV12の音は、「ホンダ・ミュージック」なんて言われました)
前回でも触れた1994年の大事故を受け、1995年からNA3000㏄に変更、2000年にNA3000㏄V10エンジンのみ、2006年NA2400㏄V8エンジンと、徐々に「F1」は馬力を失っていきます。(それでも700馬力から900馬力位はあったんですけどね)
2009年、エコ対策としてハイブリッドシステムの導入を決定。
「KERS」(Kinetic Energy Recovery System)と呼ばれるものです。減速時にエネルギーを回生し、エンジンをアシストするもので、一般のハイブリッド車と基本的には同じです。
2014年からは、「KERS」をさらに進化させた、現在の「パワーユニット」を採用しています。
「パワーユニット」の構成と仕組み
「パワーユニット」とは、
おおまかに「ターボエンジン」に「エネルギー回生システム」がくっ付いているものと考えて下さい。
「ターボエンジン」は「ICE」と「TC」の2つ、「エネルギー回生システム」は「MGU-K」「MGU-H」「ES」「CE」の4つで構成されます。
これら6つの構成要素を説明していきます。
「ICE」(Internal Combustion Engine=内燃機関)
エンジン本体です。1600㏄のV6気筒である事が、レギュレーションで決められています。
「TC」(Turbo Charger=過給機)
いわゆる「ターボ」です。
エンジンの排気でタービンを回し、新鮮な空気を圧縮してエンジンに送り込み、馬力をアップさせるものです。
この後出てくる「MGU-H」とつながっています。
「MGU-K」(Moter Generator Unit-Kinetic=運動による回生システム〈意訳〉)
簡単に言うとモーター兼 発電機です。
小学校の理科の実験を思い出して下さい。電池を繋ぐとモーターは回ります。電池の代わりに豆電球を繋いで、モーターの軸を手で回すと(かなり早く回す)豆電球が点きます。この原理を利用しています。
アクセルを踏むと、「MGU-K」はモーターとなり「ES」(後述)からの電力で、エンジンのアシストをします。
減速時にアクセルを離すと、今度は発電機となり「ES」に電力を送ります。回転運動を、電気エネルギーとして回生している訳ですね。
レギュレーションで、アシスト/回生のエネルギー量は制限されています。
*実験のモーターは直流モーターですが、「MGU」のものは交流モーターです
「MGU-H」(Moter Generator Unit-Heat=排気による回生システム〈意訳〉)
こちらもモーター兼 発電機です。
「TC」のタービンと同じ軸につながっていて、その回転で発電し「ES」に電力を送ります。又、「MGU-K」がモーターを務めている時には、そちらにも電力を供給してアシストします。
加速時は「ターボ・ラグ(下記)」解消のため、モーターとしてタービンの回転を補助します。
こちらのアシスト/回生のエネルギー量制限はありません。
ターボエンジンは、低回転時「TC」のタービンが充分に回りませんから、回転が上がるまで効果が得られません。これを「ターボ・ラグ」と言います。
「ES」(Energy Store=エネルギー貯蔵装置)
バッテリーの事です。「MGU-K」「MGU-H」で回生された電力を貯めて、エンジンをアシストする時それぞれに電力を供給します。
規則で、重さは20㎏以上25㎏以下、最大使用電圧は1000Vと決められています。
「CE」(Control Electronics=電子制御装置)
あの頃には、エンジン制御のコンピューター(ECU)がありましたよね。
あのECUの、多用途進化版と言えるでしょう。
「パワーユニット」時代になってからは「エンジン(ICE)」だけで無く、「MGU-K」/「MGU-H」と「ES」のエネルギーのやり取りや車体各部の制御など、多岐にわたる役割を担う様になりました。
現在の「パワーユニト」の頭脳です。
「パワーユニット」の馬力は約1000馬力と言われています。「MGU-K」での出力は160馬力までと決められていますから、1000-160で約840馬力が「ICE」及び「MGU-H」で生み出されている事になります。
複雑な機構を持つ「パワーユニット」の全体像が見えましたでしょうか?
中継を見ていると「ICE」のエグゾースト音の他に「キーン」と高回転の「MGU-K」の作動音が聴こえてきます。
あの頃のワイルドなエンジン音とは違いますが、そんな点も気にかけて観戦するのも楽しいかも知れません。
パワーユニットサプライヤーのひとつ、「ホンダ」が2021年シーズンを最後に撤退する事が発表されました。
日本のメーカーがいなくなる事は寂しいことですね。
来シーズンは「ホンダ」搭載車がチャンピオンを獲り、有終の美を飾って欲しいと思います。
次回の最終回「あの頃セナ・プロに熱狂した方へ⑤」では、レースについて解説したいと思います。
参考文献
『F1テクノロジー考』世良耕太(著)山栄書房 2018年
『2020FIAフォーミュラ1世界選手権規則書
/競技規則(2020.4.28付)日本語版』JAFモータースポーツ http://jaf-sports.jp/
2020FIAフォーミュラ1世界選手権規則書
/技術規則(2020.6.19付)日本語版』JAFモータースポーツ http://jaf-sports.jp/
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