なぜ「ストライク」?「ボール」?
野球の試合中一番多くコールされる「ストライク」と「ボール」。
ストライクゾーンを通った投球は「ストライク」、これはわかるとして、なぜ外れた球を「ボール」と言うのか?
今回はそんなお話です。
「野球」のルーツ
「野球(ベースボール)」は、イギリス発祥の「ストールボール」や「ラウンダーズ」などから進化したものと言われています。
これらが移民と共にアメリカに渡り「タウンボール」と名を変えて全土に広まりました。
その中から「ベースボール」という呼び名が派生した様です。
この時点ではまだ統一されたルールは無く、レクリエーションの域を脱さないものでした。
1845年、ニューヨークのタウンボール・プレイヤー「アレクサンダー・カートライト」は、対戦相手が変わる度にルールをいちいち変えなければならない不便さを解消する為、統一ルールを考え出します。
これが、現在に通ずる9人制野球の礎となりました。
翌年、隣のニュージャージー州ホーボーケンで、新ルールでの試合が開催され、これが「アメリカ初の野球の試合」とされています
初期のルール
カートライトの作ったルールは完成度が高く、現在に引き継がれているものが多くあります。
例を挙げると、「1チームは9人」「ベースは4か所」「3ストライクで1アウト」「3アウトチェンジ」なんかが該当します。
他にも、「フォースプレイ」や「ボーク」「守備妨害」の規定も既に存在していました。
又、現在と違う点としては、「どちらかが21点取った時点で試合終了」「ワンバウンド捕球でもアウト」などがありました。
このカートライト・ルールは、年を追う毎に改良されてアメリカ全土に広がっていきます。
「ストライク」
初期の野球には上記以外に、今回のお題と大いに関係あるルールがありました。
それは「投手は下手から、打ちやすいボールを投げる事」というものです。
(アンダースローではなく、ソフトボール投げって感じです)
つまり初期の野球は、極端な打撃有利なスポーツだったと言えます。
やはり、野球の華はバッティングです。
最初からそう言うスポーツだったって事ですね。
打者は投手に対して、自分が打ちやすい高低を指定出来ましたから、ストライクゾーン(打ちやすい範囲)の投球を見逃したりすると、
打者は審判から「ストライク!(打て!)」とコールされます。
せっかく、打ちやすい所に投げてもらっているのに、打たずに見逃す事への一種の注意(?)「いい球じゃん。打とうぜ!」みたいな感じですか…
で、注意3回でアウトになると。
今の感覚だと「ストライク」はピッチャーが奪うものってイメージですが、最初は逆でバッターに対する叱咤の様なものだったんですね。
「ボール」
カートライト・ルール導入当初は、現在の「フォアボールで一塁へ」の様な規定は無かったそうです。
ですから、打者は打てるボール(ストライク)が来るまで何球でも待つことが出来ました。
投手のコントロールが悪かったりすると、打者ひとりに時間が掛かり、ひいては試合時間が長くなってしまいます。
そこで、ストライクゾーン外の投球が、9球で打者は一塁に進む「ナインボール」が1870年代に取り入れられました。
投手は打ちやすいボールを投げるルールですから、ゾーンを外れた投球に対して
審判は「アンフェア・ボール!(ズルい投球?)」とコールしました。
「アンフェア」と付くと、なんかルール違反してるみたいですけど、ざっくりと「打ちやすい球を投げなさい!」的な意味かなと思います。
こちらでも、野球とは打撃のスポーツであるという事が表されていますね。
「アンフェア・ボール」の「アンフェア」の部分がいつの間にか省略され、現在の「ボール」というコールになりました。(時期はわかりません)
「ナインボール」はプレーの進化に合わせ、「8」「7」「6」「5」と減っていき、1889年頃に現在の「フォアボール(四球)」へと変化して来ました。
創世記の野球を調べていると、色々興味深い事柄にぶつかります。
例えば、カートライトの最初の試合後、両チームでお茶会したとか、
バッテリー間の距離が60.6フィートと中途半端なのは、60.0フィートと書いた図面の「0」を「6」と見間違えたからだとか、(そのままってのスゴいです)
盗塁がルール化された当初は走者の進行方向が決められておらず、三塁まで進んだ走者が二塁にまた盗塁したとか、おおらかで牧歌的な情景が浮かんでなんだかワクワクします。
今回の「ストライク」「ボール」に限らず、創世記のアメリカ野球には、楽しい逸話がたくさんありますので、今後もご紹介していきたいと思っています。
(了)
参考文献:
『白球礼讃 ベースボールよ永遠に 』 平出 隆(著)岩波新書 1989年
『野球とクジラ カートライト・万次郎・ベースボール 』
佐山 和夫(著)河出書房新社 1993年
『野球はなぜ人を夢中にさせるのか―奇妙なゲームのルーツを訪ねて』
佐山 和夫(著)河出書房新社 2000年
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