777(トリプルセブン)に何があったのか

777(トリプルセブン)に何があったのか

2021年4月26日追記

2021年2月20日、アメリカでユナイテッド航空328便ボーイング777型旅客機(以下777)」のエンジンが損傷するトラブルが起きました。

内部がむき出しになって火がついたエンジンや、住宅の軒先に落下した大きなエンジンカバーのニュース映像に驚いた方も多いでしょう。

安全のため、トラブルを起こしたものと同仕様の「777」の飛行が、全世界で停止されています。(2021年3月現在)

「777は危ない飛行機なのかな?」と不安に思う方もいらっしゃるかも知れません。

でも、決してそんな事は無いんですよ。
あくまで、まれに起こるケースであり「777」自体はとっても安全な機体です。

安心して「777」に乗れるよう、どんな飛行機なのか、今回のトラブルがどういうものなのか、説明していきたいと思います。

今回はそんなお話です。


「ボーイング777」とはどんな飛行機か

「ボーイング777」はボーイング社が、様々な旅客需要に応えるラインナップを充実させるため、いわゆる超大型の「747(ジャンボ)」と中型の「767」の隙間を埋めるために計画した飛行機です。

トリプルセブン-の愛称でよばれる事もあります。

同社のそれまでの飛行機と違い、電気信号で機体の操縦や、エンジンなどを制御する「フライ・バイ・ワイヤ*」を全面的に導入し、コンピュターと協調させる事で乗り心地の向上や、パイロットの負担軽減を実現しています。

設計段階から、購入契約済のユーザー(航空会社)と「ワーキング・トゥギャザー」を実施。
日本からも「全日空(ANA)」「日本航空(JAL)」が参加し、航空計器の表示方法や、点検用扉の位置、客席の手すりの高さ、着陸脚の構造などの多岐にわたる意見が反映されています。(トイレの蓋の閉まり方なんてのも!)
また、「すべてがコンピュターで設計された世界初の旅客機」としても有名で、日本のメーカーも設計や製造に加わっています。
我が国ともゆかりの深い飛行機なんですよ。

「777」の安全性は非常に高いと言えるもので、初就航の1990年以来、機体自体が原因(設計ミスや構造欠陥など)の事故は起きていません。
日本の「政府専用機」に採用されたのも、その安全性への評価の現れだと言えるでしょう。

「777」には、座席数の違い(-200、-300)や航続距離の長さ(LR,ER)、貨物用(RF,SF)など、いくつかのタイプがあり、合わせて1600機以上が製造されたベストセラーです。(2021年1月現在)

昨年(2020年)エンジンや主翼が新設計された、新しいタイプの「777-8X」が初飛行しました。

フライ・バイ・ワイヤ(Fly By Wire)
旅客機では、1990年頃から本格的に使われるようになりました。
それまでの飛行機では、操縦桿(含ペダル)の動きをケーブル(策)やリンク機構などを介して、各補助翼(向きを変える)の油圧動作機構に伝えていました。
これに対して、パイロットの操作を電気信号に変換し、油圧動作機構との間をワイヤ(電線)でつなぎ操縦するのが「フライ・バイ・ワイヤ」です。

開発当初は、戦闘機に採用されていた方式です。
現在では、超大型のエアバス「A380」から小型の三菱「MRJ」まで、旅客機でも幅広く使われています。

壊れたのは「エンジン」何が起きたのか?

今回トラブルを起こした「777」には、プラット・アンド・ホイットニー製の「PW4000」という「ターボファンエンジン」が搭載されていました。
この「PW4000」エンジンが損傷してしまい、今回の事例が発生したわけです。

PW4000 ターボファンエンジン(管理人撮影)


「777」に何が起きたか-を説明するために、まず「ターボファンエンジン」について説明しますね。

「ターボファンエンジン」はジェットエンジンの一種で、燃費が良く、音も静かにできる特徴があり、ほとんどのジェット旅客機で使用されています。
ざっくり「ターボファンエンジン」=「ジェットエンジン+超強力な扇風機(ファン)」だと思ってください。

上図で、ピンクの矢印で表されているのが「ジェットエンジン」の空気の流れです。
吸い込んだ空気を圧縮して、燃料を燃やし推進力(前に進む力)を得ます。
水色の矢印は「エンジンファン」と呼ばれているものへの空気の流れになります。
「ジェットエンジン」と違い、吸い込んだ空気を加速させ、そのまま後方に噴出することで推進力にしています。

この2つの推進力で、ジェット旅客機は空を飛んでいます。


空港などでエンジンを前から見た時、細い羽根が放射状にびっしり並んでいますね。

これが「エンジンファン」の部分に当たります。
また、並んだ細い羽の事を「ファンブレード」と言います。

今回のトラブルはこの「ファンブレード」が悪さをしました。


ファンブレード 注:上の写真はPW4000ではありません(管理人撮影)


ここからは、アメリカのNTSB(国家運輸安全委員会)が公開しているプレスリリースを基に、
「777」に何が起こったか
私(管理人)の推測を加え述べていきたいと思います。

該当機は離陸したあと、管制官から指示された高度まで上昇するため、エンジンの出力を上げました。
この時、衝撃音とともに右側のエンジンの「ファンブレード」が折れました。

折れた「ファンブレード」はおそらく内部で暴れまわったのでしょう。
エンジン全体を覆うカバーを破壊して地上に落下させます。
ニュース映像でも取り上げられた、-住宅の軒先に落ちた破片-がこれに当たります。

トラブル発生時、右側エンジンは燃料供給が止まり停止しましたが、火災警報が鳴りパイロットは消火装置を作動させます。
同時に、緊急事態(メーデー)を宣言、出発空港への緊急着陸を要望して進行方向を変えました。
乗客による-燃えるむき出しのエンジン-の映像は、この時撮影されたものと思われます。

この炎は潤滑油か油圧用の油が、カバー破壊の影響で漏れ出し、何らかの原因で引火したものでしょう。
一見「ジェットエンジン」が壊れて内部の火が見えているようですが、炎はその外側で燃えていますから、そうではありません。

公開された「フライト・データ・レコーダー*」の記録を見てみると、着陸するまで細かい振動がずっと続いています。
乗客はかなり怖かったでしょうね。

片側のエンジン出力を失った以外は、機体の制御に問題はなく、パイロットの的確な処置で緊急着陸に成功しました。
エンジンの火災は機体が停止したあと、空港の消防隊によって鎮火しました。

以上が現在わかっている、「777」に起きた事です。

当該機のエンジンファン ファンブレードが2枚折れています(https://www.ntsb.gov/

*フライト・データ・レコーダー(Flight Data Recorder)
飛行中の高度や方位を始め、機体・エンジンの状態、パイロットの操作など、航空法で定められた多くの項目を記録する装置です。
パイロットの会話を記録する「コックピット・ボイス・レコーダー(Cockpit Voice Recorder)」と共に旅客機に搭載され、事故の際の原因究明に役立てています。
この2つを「ブラックボックス」と呼ぶ事が多いのですが、実際の色は発見しやすいように蛍光オレンジです。
また、かなりの衝撃や、熱、水圧にさらされても、内部の記録装置が守られる様、大変丈夫に出来ています。

機能した2つの安全対策

今回のトラブルでは、乗員・乗客共に負傷者はひとりも出ませんでした。
パイロット・管制官・消防隊の迅速・的確な対応が、大きく貢献した事は間違いないでしょう。

それ以外にも、「777」の設計に組み込まれた、2つの大きな「安全対策」がそれを助けていました。

まず一つ目は、「ETOPS(イートップス)」という国際的な安全基準です。

 これは「Extended-range Twin-engine Operational Performance Standards」の略で、日本の国土交通省は「双発機による長距離進出運航」と訳して使用しています。

「777」のような双発機(エンジンが2つ)のエンジンが一つ停まってしまっても、もう一つのエンジンで緊急着陸するまで飛べる時間を表したものです。
通常「ETOPS」はその時間とともに表記されます。

今回該当の「777」は「-200」というタイプで、「ETOPS180」の承認を受けています。
つまり、「777-200」は片エンジンで180分は飛べる性能を持っているという事になります。

それが功を奏し、該当機は余裕をもって出発地に引き返す事ができました。
(「777」の長距離型や「787」など、ETOPS300を超える機種もあります)

ETOPSが承認された機体には、このように表記が入っている場合があります
(管理人撮影)


二つ目は「PW4000」エンジンの設計です。

このエンジンの「エンジンファン」は、直径が約2.84mもある巨大なものです。
「ファンブレード」はチタン合金で出来ていて、長さは約1mあります。

飛行中の「エンジンファン」は毎分約3000回という高速で回転していますから、鳥や氷との衝突など何らかの原因で「ファンブレード」が折れてしまうと、とてつもない速度で破片が飛び出し、周辺の胴体を損傷させる危険があります。
エンジンの近くの胴体には、操縦のための油圧系統や燃料パイプやタンクなど、大事なものが集まっていますし、なにより乗客を傷つけてしまうかもしれません。

これを防ぐため、「エンジンファン」の周囲を「コンテインメント・リング」で囲んでいます。
「コンテインメント・リング」は、防弾チョッキなどで使用される合成繊維「ケブラー」を巻いたもので、これによって「ファンブレード」飛び出しを防止しています。

下の写真の茶色に見える部分が「コンテインメント・リング」です。

該当機のPW4000 エンジン(https://www.ntsb.gov/


この写真をよく見てみると、「コンテインメント・リング」の上部が盛り上がっていますね。
おそらく、折れた「ファンブレード」が、内側から当たって出来たものでしょう。
しかし、どこにも破れた部分が見られないので、正しく機能し、高速のブレード破片が胴体へ直撃するのを防いだ事がわかります。

「777」に限らず現在の旅客機は、過去の経験と綿密なシミュレーションによって、あらゆる事態に対応できるよう設計され進化を続けています。

ですから、安心して「ボーイング777」に乗ってくださいね。

同じ飛行機でも航空会社によってエンジンが違う

2021年3月現在、飛行が停止されている「777」は、国内2社で32機、全世界で100機余りとなっています。

これは「PW4000」を搭載している「777」が対象となっているためで、それ以外エンジンを付けた「777」は今日も空を飛んでいます。

「777」は一部のタイプを除き、ユーザー(航空会社)が搭載するエンジンを「PW4000(プラット・アンド・ホイットニー)」「GE90(ゼネラル・エレクトリック)」「トレント(ロールス・ロイス)」の中から選択できます。

これは他の機種(メーカー)にも見られる一般的もので、航空会社は使用路線や整備体制、価格、契約内容などを考慮して、どのメーカーのエンジンを購入するか決めます。
それ以外に、その航空会社の他機種で使われているエンジンメーカーと、揃えている事例も多い多く見受けられます。

これは、あまり知られていないかも知れませんね。

身近な例を挙げてみると、「JAL」と「ANA」で現在就航している「ボーイング767」のエンジンは、メーカーが両社で違っています。
「JAL」が「P&W製」、「ANA」が「GE製」となっていて、今は退役してしまいましたが「ボーイング747」についても同様でした。
メーカーを揃えると、整備手順であったり、用語であったり、マニュアルであったりが共通化できて、メリットも多いんだろうなぁと思っています


「ボーイング777」は長きにわたり、1600機以上製造された機体です。
その中には今回の該当機のように、機齢が20年を超えるものも多く存在します。(機体記号N772UA:登録1995年9月)

「古い飛行機だから壊れたの?」と思う方もいらっしゃるかと思いますが、それはちがいます。

今のところ、私(管理人)が知る情報では、機体の加齢によるトラブルは確認していませんし、エンジンは決められた時間毎に重要部品の交換や、機体から降ろして細かくオーバーホールを行うなど、安全な状態を保つよう各航空会社は整備をしています。

繰り返しますが、安心してください。

2021年3月現在、米国NTSBが「なぜファンブレードが折れたのか」調査中です。
それが終わり、メーカーや航空会社が同じの事が起きないよう対策を講じた後、飛べない「777」たちは空へ戻るでしょう。

私(管理人)もよく搭乗し、愛着のある飛行機ですので「トリプルセブン」の飛行停止が早く解除されますように願っています。


2021年4月5日 日本航空(JAL)は地上待機中だったPW4000エンジン搭載の「777」全機を退役させることを発表しました。
新型機との置き換えで2022年3月に退役させる予定だったのですが、飛行停止解除が未定であること、コロナ禍による減便、経済的な理由などでそれを早めた形になります。

私(管理人)としては少々残念ですが、退役する「777」には「お疲れ様でした」と言いたいと思います。

尚、JALが保有する「777-200ER」および「777-300ER」はこれまで通り運航に就いています。

参考文献
『エアワールド1月号別冊 ボーイング777』株式会社エアワールド 1996年
『国土交通省 ホームページ』https://www.mlit.go.jp/
『NTSB ホームページ』https://www.ntsb.gov/
『Pratt&Whitney ホームページ』https://prattwhitney.com/

(了)