飛行機の窓は なぜ丸い?

飛行機の窓は なぜ丸い?

飛行機の窓は 小さくて、角の取れた四角い形(丸っこい)をしています。

外の景色をながめるのには、もう少し大きいといいのになぁと思った事ありませんか?
通路側の席に座ると、さらに強く感じますよね。
隣が知らない人だと尚更です。

でも、この窓の 大きさ と 形 には大事な理由があるんです。

今回はそんなお話です。


飛行機の窓が なぜ小さくて 丸いのか?

それは「機体が壊れないようにする」ためです。

えっ?
これじゃ余りにも簡単過ぎますか?
はい、それではもう少し詳しくその理由を説明していきましょう。

高度 10,000m

ジェット旅客機は長距離国際線の場合、10,000mくらいのいわゆる高高度を飛びます。
空気抵抗が少ない(空気が薄い)高高度は、少ない燃料で早く飛ぶためにはとても有利で、多くのジェット旅客機は、ここらへんの高度を飛ぶのに最適な設計をされているんです。

例に挙げた高度10,000mは、気圧が0.2気圧(地上の約1/5)、酸素濃度が約1/3,気温が約-50℃(!)と、人間にはとても過酷な環境です。
そのため高高度を飛ぶ旅客機の多くは、機内を快適に保つにためにエンジンから取り入れた空気の一部を「与圧装置」によって圧縮し、気圧を0.8気圧程度(高度約2,400m、日本アルプスの乗鞍岳山頂くらい)まで上げています。
また「与圧装置」機内の気温を調整する役割も担っています。

高度10,000mでは、機体の中と外で0.6気圧もの「気圧の差」が発生していることになりますね。

この「気圧の差」が、飛行機の窓の大きさと形を決める大きな要因になっているんです。
 

外は0.2気圧でマイナス50℃

なぜ小さいか?

前項で説明した通り、飛行中の旅客機には「気圧の差」によって、常に外側に膨らむ力が働いています。
その力は、1平方メートルあたり5トンから7トンにもなり、風船のようにパンパンな状態です。

機体にはその「気圧の差」で壊れないような 丈夫さ が要求されます。
同時に、空を飛ぶ機械ですから 軽さ も大事ですね。

この 軽さ と 丈夫さ を実現するため、採用されたのが「(セミ・)モノコック構造」です。
「モノコック構造」ってなんだか難しそうですが、私たちの身近にもあるものなんです。
 

です。

卵は、薄いカラで全体を支えています。(軽い)
またあの丸い形で、ある程度の力に耐えることが出来ますね。(とても丈夫)

「軽くて、丈夫」
正に、飛行機にぴったりな構造です。
他にも自動車や、電車の設計にも取り入れられたりしているんですよ。

卵のカラは穴が空いたり、ヒビが入ると格段に壊れやすくなりますね。
飛行機には扉や窓が必要ですから、それらをあけた分だけ強度が落ちてしまいます。

そのため筒状の機体は、輪切り方向にフレーム(リング状の柱)、前後方向にストリンガー(梁)というものを、外板(卵のカラ)の内側全体に取り付けて力を分担してます。(これを「セミ・モノコック構造」といいます)

窓は、このフレームとストリンガーの間にしか作ることが出来ません。
これらは網の目のように組み合わさっていますから、窓が作れる面積は少なくなってしまいます。

そんな理由で、窓はあまり大きく出来ないのです。

飛行機の窓が小さい理由、おわかり頂けたでしょうか?

なぜ丸いのか?

こちらの理由にも「気圧の差」が大きく関係しています。

先程、飛行中の機体は風船のように、圧力でパンパンな状態だと説明しましたね。
飛行機が着陸すると、その圧力はゼロになります。
もの凄い力が加わったり、無くなったり。
その度に機体はわずかに 膨らんだり、元に戻ったりを繰り返すことになります。

金属に繰り返し力が加わると、構造的に弱い部分に亀裂が生じ、それが進行するとそこから破断(折れる、割れる)する現象が起こります。
これを「金属疲労」といいます。
針金を手で何回も曲げていたら、ポキンと折れたなんて経験ありませんか?
正にそれが「金属疲労」なんです。

金属で出来た飛行機にも、当然「金属疲労」は起こり得ます。
ちょっと心配ですよね。

現在の飛行機は、加わる力を機体全体で分担して受け止める構造(セミ・モノコック)になっています。
万一、亀裂が起こったとしてもそれが広がらないよう、十分考えて設計されていますから安心してくださいね。

飛行機の中で、金属疲労が起こりやすいと考えられている部分のひとつに、開口部(窓、扉など)があります。
それらの開口部が長方形だと、その角に力が集まり亀裂を生じやすくなります。

これを防ぐために、開口部の角を無くして長楕円形にしてあるんです。

飛行機の窓が丸っこい理由は「機体を壊れにくくする」ためなんですね。
 

客室ドアと 窓 の角が ”丸っこく” なっているのがわかりますね


1949年、世界初のジェット旅客機DH.106「コメット」が初飛行しました。
エンジンを主翼内に埋め込んだ、軽快なスタイルの飛行機です。


しかし、1954年に2つの空中分解事故を起こし、人々に衝撃を与えました。
海に落ちた残骸を引き上げて調べた結果、開口部(アンテナ取り付け部)の角から広がった「金属疲労」の亀裂が一気に広がり、機体を破壊したものとわかりました。
当時も金属疲労という現象は知られていましたが、人類が初めて体験する高高度での高速飛行の中でわからなかった事も多く、試作機での耐久性試験の基準が不十分であったことが原因とされています。

この悲劇を教訓に、航空機の試験のあり方や、小さな破損や故障を拡大させない設計(フェイルセーフ)など、現在につながる安全への基礎が生み出されていきました。

窓が丸っこくなったのも、この事故以降です。


デ・ハビランド DH.106 「コメット」機の模型



今回は、なぜ飛行機の窓が丸くて、小さいのかを簡単に説明しました。

飛行機の設計は窓ひとつ取っても、安全に考えられていることがおわかり頂けたかと思います。

最新のジェット旅客機の中には、金属の代わりに胴体に炭素繊維を採用し強度を上げ、窓を大型化したものも現れるようになりました。(ボーイング787です)
これからも、新しい技術や素材の開発によって、ますます安全で快適な航空機が登場してくることを期待したいですね。

まぁ、窓は丸っこいままでしょうけど(笑)。

飛行機の窓は なぜ丸い?(了)