今の「F1」こうなってます  2023年版 ②

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2023年の『マシン』について PART 1あの頃セナ・プロに熱狂した方へ

今回は『あの頃』と比べ、大きく変化している「F1マシン」についての解説です。

マシンはどんな進化を遂げて来たのか?

今回は、そんなお話です。

この連載は「久しぶりに F1 見てみようかな?」なんて思っている方へ向け「セナ・プロ」が活躍していた「あの頃」(1980年代後半から90年代戦半くらい?)との違いなどを交えつつ現在の「F1」を解説し、”初心者の方にもわかりやすく”を目指しています。
これをきっかけにお一人でも「戻りF1」「はじめてのF1」という方が増えたのなら幸いです。

ご一緒に「F1」楽しみませんか?


「あの頃」からのマシンの進化(かなりざっくり)

「あの頃」のマシンは、電子技術や制御機器の発達と歩みを合わせ、アクティブサスペンション、トラクションコントロール、アンチロックブレーキ、セミオートマ、4輪操舵などのいわゆる電子デバイスを次々に導入していました。
”ウィリアムスのリアクティブサス”や”フェラーリのパドルシフト”、”ベネトンの4WS”なんかを覚えている方も多いでしょう。
この進化は、チームの予算規模によってマシンの優劣が決まってしまう状況を生み、ドライバーの競争という部分が小さくなる傾向となりました。

FIAはドライバー同士のバトルを演出するため、1994年のレギュレーション変更でこれら電子デバイスの多くを使用禁止とします。(セミオートマやパワステなど一部は継続して使用可)
電子デバイスは、進化した空力や年々増大するエンジンパワーを受け、安定して速く走るための制御装置の側面を持っていましたので、各チームは対応に苦心することになります。

同年、第3戦サンマリノGPでローランド・ラッツェンバーガー、アイルトン・セナの死亡事故(他のドライバー、観客、ピットクルーの負傷事故も)が発生。
電子デバイスの禁止も原因のひとつとされました。

1994年はこの事故以外にもプレシーズンテストや、他のGPでドライバーの負傷事故が多発しました。
これを受けFIAは安全の為、マシンのスピードを落とすための車両規定を導入します。
エンジンが取り込む空気圧を減らし馬力を低下させ、マシンが生み出すダウンフォースを減少させる処置です。

*ダウンフォースとは
マシンが高速で走行すると車体が浮き上がる力が発生し、タイヤから路面へ伝わるパワーが減ったり挙動が不安定になったりします。

また、マシンがコーナーを曲がる時、遠心力で外側に滑っていくのを防ぐため、前後のウィングなどで発生させる下向きの力をこう言います。

これ以降失ったダウンフォースを取り戻すため、各チームは空力デザインを突き詰めていきます。
フロント・リア以外にも、小さなウイングをボディ上部やフロントノーズ、サイドポッドに立てたり、カナードと呼ばれる小さな翼を付けたりと空力付加物が増えていきました。
FIA側はこれらを禁止したり、あらたな車両規定を作ったりとマシンのスピードを削る規則を採用しますが、チーム側も規則のグレーゾーンを見つけ出し、速度によってたわむ「フレキシブル・ウィング」や、取り込んだ気流をボディ内のパイプを通して加速させリヤウィングに当てる「Fダクト」、エンジンの排気を利用してマシン底面の気流速度を上げる「ブロウン・ディフューザー」などを次々に開発するという”いたちごっこ”が繰り返されました。(これはこれで楽しかったです)

こうして高度に進化した”空力マシン”は「あの頃」とは比べられない程多くのダウンフォースを獲得し、安定して速く走行できるようになっていきました。
反面、進化した空力は複雑な乱気流を後方や側面に排出する事となり、他のマシンに悪影響を及ぼします。
他車からの乱気流を受けて、ダウンフォースを失うってことですね。
明らかに後続車の方が速い場合でも、先行車に接近した途端にペースが落ち追い抜けないなんてシーンも多く見られました。

こんな状況を解消するため、昨年(2022年)から全面的に車両規定が変更され、生まれたのが現在のマシンです。

現在のマシンは「グラウンド・エフェクトカー」

 

F1.com /The official home of Formula 1®

レースカーにおける「グラウンド・エフェクト」(地面効果)とは、マシンの床面と路面の間を流れる気流を利用してダウンフォースを得る事を指します。

「あの頃」のマシンの床面はフラットでしたよね。
その床面と路面との間の空気の流れを、後部に取り付けたディフューザーで加速していました。
速い気流は他の部分より気圧が下がりますから、ダウンフォースが得られるという仕組みです。
「ベンチュリー効果」という用語を覚えている方もいらっしゃるでしょう。(川合ちゃんが良く言ってましたね)

現在のマシンは、その効果を積極的に利用する方法を採っています。
下の写真をご覧ください。
底面にトンネル状のパーツが装着されているのがおわかりになると思います。
この装置によって高速の気流を大量に流し、ダウンフォースを増大させています。
 

マシンの底部、斜め下からの画像:白い部分がトンネル状になっています
F1.com /The official home of Formula 1®

この底面のトンネルによって、フロント・リアのウィングを小さく設計する事が出来、乱気流の発生量の大幅な低減に成功しています。
これ以外にも、フォーミュラーの特徴である露出したタイヤが生み出す乱気流を減らす事を目的に、フロントタイヤの内側に整流版(オーバーホイール・ウィングレット)を、全てのタイヤにホイールカバーを付ける規定になっています。
 

F1.com /The official home of Formula 1®

マシンが新しくなった昨年(2022年)のシーズンは、開幕戦からオーバーテイクが連続する熱い戦いになり、今回の車両規定の変更が正しく機能した証明となりました。

私(管理人)はスッキリとしたこのマシン、結構気に入っています。

実はグラウンド・エフェクトカーは、「あの頃」以前の1970年代後半にF1で走っていたんです。
この時代のマシンは現在のような繊細な設計が出来なかったせいもあって、ポーポシングと硬いサスペンションによるドライバーへの負担は今以上に大きなものでした。
1982年には深刻な事故が多発しグラウンド・エフェクトカーは規則によって禁止され、「あの頃」のようなフラットな床面のマシンへと変更されたという経緯になっています。

グラウンド・エフェクトカーの「ポーポシング」

「ポーポシング」の問題点

新世代マシン初年度の昨年、多くのチームのマシンが悩んだ問題が「ポーポシング」と呼ばれる現象です。
高速走行時にマシン全体が上下に激しく小刻みに振動することを指し、「ポーパシング」「ポーポイジング」などとも呼ばれていてます。

このポーポシングは、ドライバーの身体への悪影響(眼球の振動、各筋肉への負担増)や、振動によって起こるダウンフォースの増減によるマシン姿勢の変化(トップスピード減少、ドライビング悪化)を引き起こします。

ポーポシングが発生する速度はチームによって様々で、振動の度合いも収まる速度も違っていたりします。
例えば、メインストレートから1コーナーへの飛び込みで速度を落とした時、Aチームのマシンはポーポシングが収まりスムーズに曲がることが出来て、Bチームのマシンではそれが収まり切らずダウンフォースが不安定になり、姿勢が乱れて通過速度が遅くなるといった違いが出て来るわけですね。
  

なぜポーポシングが起きるのか?

先ほど触れたように、今年のマシンは前後のウィングと、底面のトンネルでダウンフォースを得ています。
ポーポシングは、この仕組みの副作用として起きています。

それでは順を追ってポーポシング発生の原因を簡単に解説してみますね。

マシンの速度が上がると、それに比例してダウンフォースが増えます。
速度が高速度に達すると、以下のような作用が働きます。
① ダウンフォースが増える⇒車高が下がる
② 車高が下がる⇒底面トンネルへの空気流入量が減る
③ 底面トンネルへの空気流入量が減る⇒ダウンフォースが減る
④ ダウンフォースが減る⇒車高が上がる
⑤ 車高が上がる⇒底面トンネルへの空気流入量が増える
⑥ 底面トンネルへの空気流入量が増える⇒ダウンフォースが増える

この①~⑥までを短い時間(秒間2回くらい?)で繰り返す状態がポーポシングです。
このポーポシングにサスペンション伸縮やタイヤの変形、路面の凹凸によってマシンが弾むような動き(バウンシング)が加わり、振動を増幅させます。

ドライバーが感じている上下動は、3~4センチにも達することがあるそうです。(これはつらいですね)
 

「ポーポシング」解決のための規定変更

FIAはこのポーポシングへの対策として、今年からマシンのフロアパネル(上写真、マシンの黒い部分)の形状変更と、変形しやすさへの規制を決定しました。
これに加え、側面の剛性を挙げた新設計のタイヤを導入しています。

この変更によって今シーズンのマシンからは、ドライビングに支障が出るような激しいポーポシングは起きていません。(グラウンド・エフェクトカーの持病のようなものですから、無くなりはしないでしょう)

また、各マシンには縦方向への加速度を計測するセンサーが搭載され、ポーポシングによるドライバーへの身体的負担を監視しています。
この数値が決められた指数を超えた場合、ペナルティーが課される規則になっています。


「あの頃」から幾度も変遷を重ね「グラウンド・エフェクトカー」に到達した現在のマシン。
概要はおわかりいただけたでしょうか?

現在のマシンは、これ以外にも「あの頃と」随分変わった点が多くあります。

次回は、その辺りのご説明をしたいと思っています。

 
2023年の『マシン』について PART 1あの頃セナ・プロに熱狂した方へ (了)