今の「F1」こうなってます  2023年版 ③

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2023年の『マシン』について PART 2あの頃セナ・プロに熱狂した方へ

今回も「あの頃」とは随分と進化し、そして安全になったF1マシンについてのお話です。
細々とした部分も出てまいりますが、どうぞ最後までお付き合いください。

この連載は「久しぶりに F1 見てみようかな?」なんて思っている方へ向け「セナ・プロ」が活躍していた「あの頃」(1980年代後半から90年代戦半くらい?)との違いなどを交えつつ現在の「F1」を解説し、”初心者の方にもわかりやすく”を目指しています。
これをきっかけにお一人でも「戻りF1」「はじめてのF1」という方が増えたのなら幸いです。

ご一緒に「F1」楽しみませんか?


前記事:「2023年の『マシン』について PART 1」はこちらから

 

安全になったマシン

「あの頃」と比較して、一番進化したと思われるのがマシンの「安全装備」です。

1994年のローランド・ラッツェンバーガー、アイルトン・セナの死亡事故以降、F1は安全対策に注力して来ました。
車両同士の衝突に関しては、厳しいテストを設けるなどしてマシンは年々丈夫に、そして安全になっていきます。
しかし、2009年ハンガリーGPで飛来物によるフェリペ・マッサの負傷事故、2014年日本GPでジュール・ビアンキが作業中の重機の下に潜り込み昏睡状態(翌年、惜しくも死亡)に陥る事故が発生。
他のカテゴリーでも、同様な重大事故が多発しF1を含むモータースポーツ界は、ドライバーの頭部の保護を目的とした対策が求められました。

その解決策として2018年から導入されたのが「HALO(ハロ、ヘイロー)」という頭部を囲むように装着するデバイスです。
下写真で”CROWDSTRIKE”とロゴが書かれている部分がそれに当たります。
 

https://www.mercedesamgf1.com

「HALO」の開発は2016年から開始され、幾つかの試作品の中から視認性、強度、重量などを検討した結果この形になりました。
素材はチタニウム、重量は取り付け部品を含め約10kgで、指定を受けた3社が生産しています。

この「HALO」以外にも、コックピットには横方向からの衝撃を軽減しドライバーの首を守る「ヘッドプロテクター(サイドプロテクターとも)」の装着が1996年から義務付けられています。(上写真の”G42”のロゴの辺り)

これらの安全装置は、接触した他のマシンがコックピットの上に乗り上げたり、激しいクラッシュでマシンがガードレールに食い込んだり、裏返しになったマシンがコースを滑っていったりと、以前なら深刻な事故になっていたであろうトラブルからドライバーを保護する効果を発揮しました。
(その見た目から否定的な意見もありましたが、「HALO」の効果が実証されると、そんな声も消えていきました。現在では色々なカテゴリーのマシンで採用されています。)

マシン自体の衝突安全性も以前にも増して厳格化され、現在は正面からは48%、後方からは15%の衝撃軽減が規定されてます。

それから、マシンの装備ではないのですがドライバーには「FHR」(Frontal Head Restraint systems)というデバイスの装着が義務付けられています。(ハンスとも呼ばれます)
衝突などの急減速時、首が激しく前に倒れて頸椎を損傷する事(ギロチン現象)を防止するため開発されたもので、肩に載せた本体とヘルメットをストラップでつないでマシンに乗り込み、本体をシートベルトで固定して使用する構造です。
F1では2003年から使用を開始し、現在多くのカテゴリーで採用されています。
 

https://www.mercedesamgf1.com

「FHR」以外のドライバーの安全装備品に関しては、小さな飛来物を防ぐためヘルメット開口部の大きさの規定や、ドライバーの身体状況(バイタル)をモニターするためのセンサーがついたグローブなどがあります。

マシンは「あの頃」よりずっと安全になっている事が、お分かり頂けたかと思います。
 

安全デバイスに囲まれ、ヘルメットがほとんど見えません。
https://scuderia.alphatauri.com/

オーバーテイクのための「DRS」

「あの頃」には無かったもののひとつに「DRS」(Drag Reduction System)があります。
これはデットヒートを演出するために、2011年から導入したシステムです。

具体的にはリヤウィングのフラップの部分が水平になり、前方からの空気抵抗が減ることによってスピードを上げ、オーバーテイクをしやすくする装置です。
可動する空力パーツが禁止だった「あの頃」には考えられなかった変化ですね。
 

後方のマシンは「DRS」を使用中です
twitter.com/F1

開催されるサーキットによって「DRS」を使用可能な区間が2~4か所設定されています。

フリー走行と公式予選(スプリント・シュートアウトを含む)では自由に使用できますが、決勝レース(スプリント・レースも)では、使用可能区間の手前にある計測ポイントで前車から1秒以内に近づいた場合のみ使用することが出来ます。
また、各車の間隔が密なスタート直後には使用できません。

作動はステアリングにあるボタンで起動し、ブレーキを掛けるか使用可能区間が終わると自動で終了します。

コースの状態やマシンによって差があるのですが、「DRS」によって20㎞/h前後のスピードアップが可能と言われています。

「あの頃」にあったもの なかったもの

電子制御によるドライビング
複雑化した現在のマシンは、シフトチェンジ、スロットル(アクセル)、ブレーキと、ドライビングの基本操作全てに電子制御が取り入れられています。
「あの頃」ステアリングのシフトパドルの操作や、アクセル・ブレーキペダルの度合いはワイヤーやリンク機構などで伝えられていましたが、それらをデジタル信号に変換しそれぞれの装置に伝えています。
これは「ドライブ・バイ・ワイヤ(直訳:信号ケーブルによるドライブ)」(DBW)といわれるもので、マシンがハイブリッド車になった2009年あたりから一般化していきました。

進化したギアボックス
ギアボックスに関して「あの頃」は、自由に製作・変更が可能でした。
現在「DBW」によって制御されるギアボックスは、前進8速・後進1速と決められています。
ギアの設定(ギアレシオ)はシーズン前に決めたものに固定され、変更は認められていません。
それに加え、1シーズンで交換できる回数も決まっていて、それに違反した場合はペナルティが課されます。
システムは、シフトチェンジ時の空送(一瞬アイドルになる時間)がほぼ起きない「シームレス・ギアボックス」となっていて、それ以前と比べ1周あたり0.5~1秒のタイムアップがなされています。

また「あの頃」コックピット内にあったシフトノブやクラッチペダルは、ギアボックスのデジタル制御のため姿を消しています。

ステアリングホイール
いわゆる”ハンドル”ですね。
こちらも著しく進化しています。

デジタル信号によって制御されるマシンの入力装置(パソコンのキーボードに相当)としての役割を持つステアリングホイールには、20を超えるボタンやダイヤルが付いていて、ブレーキの前後バランスや燃料濃度、ハイブリッドシステムのエネルギー管理などがドライバーの操作によって変更が可能です。

ステアリングホイールの中央にはスマートフォン大のディスプレイが埋め込まれていて、マシン各部の状態やラップタイムなどがモニターできます。
また、レース管理者からの指示(赤旗、セーフティーカーなど)もこちらに表示されます。

上部には沢山のLEDが並んでいて、タコメーターや警告灯として使用しています。

300㎞/h以上で疾走し、物凄い”G”に耐えながら、各機能をコントロールし、無線で話し(悪態をつき)、シフトチェンジをし、画面でマシンの状態を確認しながら、コーナーをクリアしつつ、バトルする。
私(管理人)にはとても出来ない世界です。(汗)

操舵システムはパワーステアリングになっています。
 

夜間レースではディスプレイがハッキリと読み取れて、とても興味深いですよ。
twitter.com/F1


リアウィングライト
「あの頃」からマシンの後部に”テールライト”は付いていましたが、夜間レースが始まると視認性の低下が問題となり、リアウィング翼端版の後縁にLEDによるライトが追加されました。

このライトは以下の状況でそれぞれ異なるパターンで点滅し、他車に注意を促します
・雨天レース(タイヤが跳ね上げる大量の水滴による視界悪化)
・ハイブリッドシステムの電力切れ(急減速による追突防止)
・惰性走行している時(同上の理由)
・ピットレーンでのスピードリミッター作動時
・セーフティーカー展開時(他車への注意喚起) など
  

twitter.com/F1

夜間レースでは、このリアウィングライトやステアリングホイールの表示、路面との接触による火花、熱で赤く光るブレーキディスクが幻想的でもあります。

*スピードリミッター
現在、F1のレギュレーションに於いて、ピットレーンは80㎞/h(一部60㎞/h)以下で走行しなけれはなりません。
これを超えてしまうと、ペナルティや高額な罰金が課されてしまいます。
これを防ぐため、各車にはその制限速度までしか上がらないよう「スピードリミッター」が設定されていて、ドライバーのボタン操作で作動します。

この規則は1994年のイモラGPで起きたピットレーンでの事故を受け、次のレース(モナコGP)から導入され現在まで続いています。

「あの頃」は各車マシンを振り回しながら、全開でピットに出入りしてました。
思えばかなりデンジャラスでしたなぁ…


2回にわたり、2023年の「F1マシン」について解説をしてまいりました。
「あの頃」と同様に、先端技術を全身にまとったマシンの概要がおわかり頂けたでしょうか?
これからも、「F1」がどのような進化をしていくのか、楽しみに見ていきたいですね。

次回は”ハイブリッド車”となったマシンの心臓部「パワーユニット」について、ご説明したいと思います。
 

2023年の『マシン』について PART 2あの頃セナ・プロに熱狂した方へ 2023(了)