今の「F1」こうなってます 2023年版 ④
- 2023.05.11
- F1 モータースポーツ
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2023年の『パワーユニット』について /あの頃セナ・プロに熱狂した方へ
今回はF1マシンの動力源である「パワーユニット」についての解説です。
「あの頃」からF1のエンジンは、マシン同様にかなりの進化を遂げています。
少々複雑なご説明になるかと思いますが、どうぞお付き合いください。
この連載は「久しぶりに F1 見てみようかな?」なんて思っている方へ向け「セナ・プロ」が活躍していた「あの頃」(1980年代後半から90年代戦半くらい?)との違いなどを交えつつ現在の「F1」を解説し、”初心者の方にもわかりやすく”を目指しています。
これをきっかけにお一人でも「戻りF1」「はじめてのF1」という方が増えたのなら幸いです。
ご一緒に「F1」楽しみませんか?
パワーユニットって?
「あの頃」のエンジンに相当するものを、現在は「パワーユニット(PU)」と呼んでいます。
これまで幾度かの変遷を経て、F1マシンは「ハイブリッド車」に進化しました。
ハイブリッド車はエンジンと電動モーターを組み合わせて走りますよね。
このためエンジンはF1マシンの動力装置の一部となり、「ICE(内燃機関)」と呼称されています。
この「ICE」とそれに付く「TC(ターボ)」、発電機を兼ねたアシスト電動モーター「MGU-K」、排気を利用して電力を生む「MGU-H」、電気をためておく「ES」、それらを電子制御する「CE」と「EX(エキゾーストシステム)」の7つで構成されたマシンの動力装置が「パワーユニット」です。
なんだかややこしそうですが、簡単にまとめると『パワーユニット=ターボエンジン+電動モーター+電力回生装置』ということになります。
F1マシンのハイブリット化は、まず2009年に始まりました。(CO2削減のため)
この時導入されたのが「KARS(Kinetic Energy Recovery System)」といわれるシステムで、減速時の運動エネルギーを電力として回生しエンジンをアシストするものです。
街を走っているハイブリッド車と基本的には同じと考えて下さい。
この「KARS」をブラッシュアップし、それに加え排気ガスをエンジンパワーと電力回生に利用して運動効率の改良と環境への配慮を実現したものが、2014年から使われている現在の「パワーユニット」です。
2023年シーズンは「フェラーリ」「メルセデスベンツ」「ルノー」「RBPT(レッドブル・パワー・トレインズ)〔ホンダが委託生産〕」の4社が供給しています。
パワーユニットのエレメント
それではパワーユニットの7つのエレメント(構成要素)を、もう少し詳しく見ていきましょう。
「ICE」(Internal Combustion Engine=内燃機関)
パワーユニットの中心となる、”エンジン”です。
排気量1.6リッター、Ⅴ6気筒、最大回転数15,000rpmであることが、レギュレーションで決まっています。
このICEは単体で、大体850馬力を発生させると言われています。
燃料に関しては、化石燃料(ガソリン)90%とバイオエタノール10%を混合した「E10燃料」が昨年(2022年)から導入されました。
F1は2030年までに”CO2の排出ゼロ”を目標としており、E10燃料はその第一段階として採用が決められたものです。
燃料使用量は1レース(約300㎞)に100㎏までに制限されています。
2026年にはパワーユニットに関するレギュレーションが全面的に改定される予定で、100%カーボンニュートラル燃料の使用が決まっています。
「TC」(Turbo Charger=過給機)
いわゆる”ターボ”です。
市販車にも使われている技術ですね。(最近は減りましたが)
「ICE」の燃焼ガスで排気タービンを回し、それにつながった吸気タービン(コンプレッサー)で新鮮な空気を圧縮してエンジンに送り込み、エンジンの燃焼効率を上げて馬力をアップさせる装置です。
排気タービンはこの後にご説明する「MGU-H」に直結されていて、電力の発電にも使用されています。
この技術が中々やっかいで、パワーユニットの導入初期には正確な動作や効率について、各メーカーとも苦労していた印象です。
中でも、ホンダは自社の飛行機”ホンダジェット”のエンジン技術者の協力で問題を解決し、2021年と2022年のチャンピオンパワーユニットを生み出しました。
「MGU-K」(Moter Generator Unit-Kinetic=運動による回生システム〈意訳〉)
なんだか長い名前の装置ですが、簡単にまとめると”モーター 兼 発電機”です。
走行中のクルマが止まる(減速する)時、その運動エネルギーはブレーキによって熱エネルギーに変換されて大気中に放出されます。(マシンのブレーキディスクが真っ赤になっているのが、正にその瞬間です)
せっかくのエネルギーをただ捨ててしまうなんて、勿体ないですよね。
そこでそのエネルギーを再利用してエンジン(ICE)のアシストをさせて燃料の使用量を減らし(排気の炭素が減る)、環境改善に貢献することを目的に開発されたのが前身の「KARS」であり現行の「MGU-K」です。
アクセルを踏むと「MGU-K」はモーターとして働き、マシンの加速をアシストします。
減速時にアクセルを離すと「MGU-K」は発電機となり、「ES」(後述)へ電力を送り蓄えます。
模型用のモーターの軸を手で回して、リード線(青と赤のコード)に繋いだ豆電球を点ける実験をやった方もいらっしゃるでしょう。
この実験と基本的な考え方は同じです。
「MGU-K」の最高出力は120㎾(約160馬力)までに制限されています。
なので、現在のパワーユニットは「ICE」約850馬力と「MGU-K」160馬力の合計で、1000馬力を超えているという事になります。
「あの頃」のホンダV12エンジン(RA122E/B:1991年)が大体780馬力ですから、随分とパワフルになりました。
出力や発電能力は比べ物になりませんが、一般のハイブリッド車にも搭載されている技術です。
「MGU-H」(Moter Generator Unit-Heat=排気による回生システム〈意訳〉)
前述の「MGU-K」と合わせて「ERS(Energy Recovery System=エネルギー回生システム)」とも呼ばれています。
簡単にまとめると、こちらも”モーター 兼 発電機”です。
「TC」の排気タービンの軸とつながっていて、その回転でモーターを回し発電します。
その電力を「ES」へ送り「MGU-K」の電源とするか、直接「MGU-K」に送ってパワーをアシストする事が主な役割です。
「MGU-K」と同様に、捨ててしまうエネルギー(こちらは高速な排気ガスの気流)を再利用している訳ですね。
「MGU-H」にはモーターとなって排気タービンを回し、いわゆる「ターボラグ*」を解消する機能もあり、なかなか忙しいデバイスです。
「MGU-K」と違って、こちらの入出力に関しての制限はありませんので、パワーユニットの性能差に大きく関係するデバイスであるといえるでしょう。
2026年からの新たなパワーユニットの技術規定で、この「MGU-H」は廃止されます。
*ターボラグ
加速時などエンジンが低回転な時には流れる排気ガスの量が少なく、ターボチャージャーは十分な空気の圧縮が出来ません。
回転数が上がっていくと、ある時点でガスの力と慣性力とが相互に作用しタービンの回転数が急激に上がり、ターボチャージャーが急に効いてきます。
加速時にアクセルを踏み込んでから、ターボが効いて来るまでの時間差をこう呼んでいます。
「ES」(Energy Store=エネルギー貯蔵装置)
「MGU-K」と「MGU-H」で回生された電気を貯めておく装置です。
バッテリーの事ですね。
「ES」はレギユーションで重さ20㎏~25㎏、最大電圧は1,000Vと決められています。
また、一周当たりに「ES」から「MGU-K」へ走行のために送れるエネルギー量は4MJ、「MGU-K」で回生し 「ES」へ充電のため送れるエネルギー量は2MJと差がつけられています。
このため全開走行を求められる「予選」では、アタックラップ(タイムを出す周回)の前にチャージラップ(電力を充電する周回)を行う必要があります。
「CE」(Control Electronics=電子制御装置)
「あの頃」のエンジンには、燃料噴射などを制御するための小型コンピューター「ECU(Engine Control Unit)」が搭載されていました。
現在のF1マシンはデジタル化が進み、「ERS」など電子制御される機器が多岐に渡るようになりました。
また、マシンの各部には多くのセンサーが付けられていて、そのデータ管理や送信機能も求められます。
これらをまとめ、制御するのがこの「CE」です。
正に”F1マシンの頭脳“と言えるものです。
「EX」(Exhaust System=排気システム)
F1の場合は「ICE」⇒「TC」の排気を1本のパイプから、後方に排出しています。(市販車の様なマフラーや触媒はありません)
これに「TC」内部の圧力調整用のポップオフバルブや、ウエストゲートパイプなどを含めた排気システムの総称です。
「あの頃」はエンジン毎に違うエキゾースト音も、レース観戦の楽しみの一つでしたね。
高出力な現在のパワーユニットでも迫力ある大音量を期待したいところですが、「TC」と「MGU-H」の作用によって控え目なエキゾースト音におさまっています。
「音」もまたエネルギーの一つですからね。
「パワーユニット」に関する規則
前章で解説した7つのエレメントには、1シーズンで使用できる数が以下の様に決まっています。
*「ICE」「MGU-K」「MGU-H」「TC」は4基まで
*「ES」「CE」は2基まで
*「EX」は8基まで
(一度交換した機器の再利用は可能)
この数を超えて使用すると、レースのでスタート順(グリッド)降格のペナルティが課されます。
*規定数を最初に超えた場合は10グリッド降格、その次からは5グリッド降格
(例:「MGU-H」の5基目は10グリッド降格、6基目からは5グリッド降格)
*1グランプリで複数のエレメントを交換した場合は、それぞれのペナルティが加算された分グリッド降格
*1グランプリで同じエレメントを重ねて交換した場合、最初の交換分だけの降格で良い
(例:予選で「TC」の5基目、決勝で6期目を使用した場合、10グリッドの降格で良い)
*1グランプリでのペナルティの合計が15グリッドを超えた場合は、予選順位に関わらず最後尾からスタート
これらの規則は、チームの予算規模によって使用基数の差が出ないよう、又F1全体のコスト上昇を抑えるためのものです。
「あの頃」には、10周しか持たない”予選用エンジン”みたいな滅茶苦茶がありましたからねぇ...
これは正しい方向だと思います。(あれはあれで楽しかったですけどね)
今回はF1マシンの心臓部「パワーユニット」について解説してまいりました。
これからもパワーユニットはより速く、パワフルに、エコに、そして我々ファンが驚くようなテクノロジーの進化を見せてくれることでしょう。
2026年の新規定が楽しみです。
2023年の『パワーユニット』について /あの頃セナ・プロに熱狂した方へ 2023(了)
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