住宅街にたたずむ 新幹線 / 祝 新幹線開業60周年
- 2024.10.07
- 写真 鉄道 雑学
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1964年10月1日、東海道新幹線(東京~新大阪)が開業しました。
これをはじめとし、新幹線は北海道から九州までネットワークを広げています。
今年(2024年)春には北陸新幹線が敦賀まで延伸し、北海道新幹線の札幌延伸(2030年予定)も視野に入るなど、ますます日本中に広がる「新幹線網」。
そんな「新幹線網」の始祖となる車両が、東京の住宅街で静かに余生を送っています。
なぜこんなところに新幹線が?
その電車はどんな歴史を歩んできたのか?
今回はそんなお話しです。
住宅街の中の新幹線
JR中央線 国立駅の北口を出て、しばらく歩くと閑静な住宅街に入ります。
その中にある国分寺市の総合福祉施設「ひかりプラザ」にその車両は屋外展示されています。
住宅街に突然現れる、巨大な新幹線。
かなりインパクトがありますよ。
なぜこのような所に新幹線が展示されているのでしょうか?
それには「ひかりプラザ」のお向いに広がる「公益財団法人・鉄道総合研究所(以下:鉄道総研)」の存在が関係しています。
「鉄道総研」はその名の通り鉄道に関する研究開発を行う施設であり、前身は旧国鉄に付属する「鉄道技術研究所(以下:技研)」でした。
1959年(昭34)にこの場所に移転した「技研」からは、わが国が誇る鉄道技術の多くが生み出されました。
その中には、現在の「新幹線」につながる基礎研究の多くが含まれています。
まさに、この場所は「新幹線誕生の地」と言えるでしょう。
また、この辺りの町名は「技研」が生み出した東海道新幹線「超特急ひかり号」にちなみ、「国分寺市光(ひかり)町」と1966年(昭41)に改名されています。
「新幹線」と強い縁(えにし)で結ばれているこの場所に「新幹線」が展示されている事には、納得の理由があるんですね。
この電車は、1991年に国分寺市に寄贈され「新幹線資料館」として無料で公開されています。
新幹線関係の保存車両としては珍しいことに、運転席に自由に座れて各機器にも触れます。
客室には新幹線にまつわる品々が展示されていたり(新幹線ファンには”垂涎もの”もあります!)、模型のジオラマがあったり、沢山の鉄道関連の本があったりと狭いながらも充実した内容になっています。
951形
この車両の形式は「951形」といいます。
東海道新幹線開業後、正式に建設が決まった「山陽新幹線(新大阪~岡山、1972年開業)」での最高速度250km/hを目指し計画された試験車で、1969年に「951-1」と「951-2」の2両が作られました。
ここに展示されている車両は「951-1」です。
開業時の新幹線電車「0系」の最高時速は210kmでしたので、将来の更なる路線延長を見越しての所要時間の短縮を目指した車両です。
つまり現在の「新幹線網」に繋がる計画のスタートを担う存在だったと言えるでしょう。
ハイパワーのモーター(主電動機)を積み、より軽いのアルミ合金のボディを採用、空調装置など重い機器を車両の下部に設置し低重心化を図るなど、徹底的に高速化を目指した設計になっています。
「951形」は新大阪の車両基地に配置され、1970年2月から最終列車後の東海道新幹線や工事の終わった山陽新幹線の路線を使って速度向上試験を行いました。
台車関係のトラブルで空白期間はありましたが、それも乗り越え1971年暮れから試験を再開。
1972年2月24日、姫路~西明石間で当時の国内最高記録である286km/hを達成しました。
高速車両として設計された「951形」ですが、将来を見据えた運転技術も試験されています。
「ATOMIC(Automatic Train Operation by Mimi-Computer)」というシステムが自動で列車をダイヤ通りに運行し(遅れの回復も含む)、定位置にきちんと停車させるというものです。
1970年から1971年にかけて、東京~新大阪で行われた4回の試験では多少の誤差はあったものの、満足な結果が得られました。
現在、試験が行われている新幹線の自動運転技も、この「951形」からスタートしたんですね。
各種の試験を終えた「951形」は1980年に引退しました。
鉄道技術研究所に住処を変えた2両の「951形」は、新たな鉄道の技術試験に使用されます。
その後「951-1」は前述の通り「ひかりプラザ」に保存、ペアを組んでいた「951-2」は後輩の新幹線たちに自ら試験した多くの技術を受け継ぎ2008年に解体されました。
新幹線資料館のみどころ
「新幹線資料館」となった「951形」について、私(管理人)の撮影した写真と共に、ご紹介したいと思います。
(写真はクリックで大きくなります)
それでは、外観から見ていきましょう。
初代新幹線「0系」によく似た”丸い目に団子っ鼻”ですが、高速化に伴う空気抵抗を軽減するため、鼻(ボンネット)が約2m伸ばされています
ボンネットの中には制御機器などが納められていて、その冷却のため通気口が両側にあります
新幹線歴代で最大直径1000㎜の車輪
これも高速化への工夫です
サイドのスカートには、床下に設置された機器やエアコンのための通気口が沢山あけられています
客室の窓は初期の「0系」同様の2列毎の広いタイプです
カーテンはなく二重になった窓の内部を、電動ブラインドが上下する構造でした
真ん中のシルバーの線はその為のレールです(951-1のみ)
やはり私(管理人)的には、この窓やスカートが青い塗装がしっくり来ます。(世代的なもんでしょうか?)
現在の軽快な塗装も好きですけどね。
続いて車内のご案内です。
まずは運転席から
運転士が操作しやすいよう、スイッチ類がL字状に配置されています
写真内の矢印が速度指示装置(自動車のアクセルに相当)です
*「速度指示装置」は「951形」特有の呼び方です
一般的には「マスコン」といいます
客室の展示物をいくつかご紹介します。
高速度記録記念プレート
この車両「951形」の記念プレート
左は初代新幹線の試作車が出した記録(256km/h)、右は「951形」の後継である「961形」のもの(319km/h)
いずれも電車の日本新記録でした(「961形」は世界記録でもありました)
風洞実験用模型
SUS概念設計モデル
国鉄時代の1980年代前半、さらなる高速化(最高時速350k)を目指して構想された「SUS」(Speed Up Shikansen)のイメージ模型
実際に作られることはありませんでしたが、現在の新幹線に似た部分も多く「技術の繋がり」を感じさせてくれます
「新幹線資料館」の「951形」はご紹介した通り、運転席の機器などに触れながら見学する事ができます。
しかしながら、この展示方法は破損や欠損などが多く維持管理が大変なものなんです。(関係者各位には頭が下がります)
世界でただ1両の大変貴重な車両ですから、いつまでも美しくいてもらえるようマナーを持って見学していきたいですね。
参考文献
『先を見過ぎた鉄道車両たち』富田松雄(著)イカロス出版 2021年
『新幹線エクスプローラ 69』関 三穂(編)イカロス出版 2023年
住宅街にたたずむ『新幹線』/ 祝 新幹線開業60周年 (了)
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